中国でのPSCの指摘増加を機に船籍変更を考える

PSC

2026年3月以降、中国とパナマの国際関係が冷え込み、中国政府のパナマ籍船へのPSCでの取り締まりが厳しくなってきています。

中国、パナマ籍船 拘留5倍。PSCで。港湾接収で報復か|日本海事新聞 電子版

そのため、PSCでのDetentionの可能性や指摘件数を減らすために、転籍を考えている船主も多いのではないでしょうか。個人的には中国政府の厳しい取り締まりに屈し、転籍するようなことはしてほしくないですが、今回は転籍のためにはどのような手続きが必要か整理したいと思います。

国籍変更については基本的には訪船検査が必要となり、定期的検査のレンジ以外で実施する場合は年次検査相当が要求されます。
基本的な手順、準備が必要な書類と検査要件については以下の通りです。
1.事前提出書類
船籍変更が決まったら、できるだけ早く船級へ提出します。
主な提出書類
・検査申請書
・仮国籍証書写し
・無線局免許状写し
・GMDSSオペレーターライセンス写し
・Grain Loading再承認申込書(該当船)
・CMS・PMS・CBM申込書(管理会社変更時)
・PSCM申込書(プロペラ軸予防保全方式採用船)

また船籍国によっては、
・Certificate of Survey
・RO Statement / Confirmation
の提出が要求されることがあります。

2.船籍変更時の検査(IACS PR28)
定期検査時期に船籍変更する場合、通常の定期検査を実施します。
定期検査時期以外に船籍変更する場合、船籍変更のための特別検査を実施します。

代表例
・Load Line Annual Survey
・Safety Construction Annual Survey
・Safety Equipment Annual Survey(旗国によりRenewal相当の場合あり)
・Oil Pollution Prevention Annual Survey
・NLS Annual Survey
・Sewage Pollution Prevention Renewal Survey
・Air Pollution Prevention Annual Survey
・Chemical / Gas Carrier Annual Survey
なお、前回の定期的検査から3か月以内であれば、多くの項目は省略可能です。

3.船籍国特有の要求事項の確認
以下の事項に対して、移り先の船籍で特別要件がないか確認する必要があります。

図書関係
・SOPEP
・SMPEP
・Ballast Water Management Plan
・Cargo Securing Manual
・Grain Loading Booklet
・SEEMP
・STS Operation Plan
・VOC Management Plan
など。

技術要件
船籍国により、
・揚貨装置登録
・エレベーター登録
・特別な図面審査
・艤装品承認基準
が異なります。

免除事項
・旧船籍で取得していた
・Exemption
・Multiple Load Line
・EGCS同等措置承認
などは、新船籍国から改めて承認を取得する必要があります。

4.無線・航海設備の変更
船籍変更前に各業者手配が必要です。
主な変更項目
・MMSI再設定
・INMARSAT番号変更
・AIS情報変更
・AIS-SART情報変更
・SART情報変更
・VDR情報変更
など。

検査時には
・新Call Sign銘板
・LRIT Conformance Test Report
・GMDSS保守契約
・整備記録
を提示します。

5.図書の再承認
船籍変更時には以下の再承認が必要になります。
・SOPEP
・SMPEP
・Ballast Water Management Plan
・Cargo Securing Manual
・Grain Loading Booklet
・SEEMP Part I・II・III
・STS Operation Plan
など。

6.再発行される証書
船籍変更後は以下の証書が再発行されます。
・船級証書
・各種条約証書
・国際トン数証書
・IMSBC Fitness Certificate
・Grain Loading Certificate
・IHM Certificate
・IMO DCS関係証書
・Stability Instrument承認証書
など。

また、ISM/ISPS/MLCの臨時審査も必要になります。

~ISM~
管理会社が変わらず、船籍(Flag)が変更になる場合は、新しい旗国のもとで仮SMC(Interim SMC)を取得する必要があります。

仮SMC発行前に確認される事項
1.新旗国のDOCがあること
会社は、新旗国のDOCまたは短期DOCを保有している必要があります。

2.船主と管理会社が異なる場合
仮国籍証書に記載された船主と管理会社が異なる場合、
ISM Code 3.1に基づく”Shipowner → Management Company”
の委任関係を示す書類の提出が必要です。

3.新旗国の条約証書を保有していること
新旗国名義の
・Safety Construction
・Safety Equipment
・Safety Radio
・IOPP
・IAPP
などの条約証書が有効であることを確認します。

4.新旗国法令を船長が理解していること
船内に
・Maritime Regulations
・Circulars
・Marine Notices
など新旗国の法令類が備えられていること、
さらに、船長がその内容を認識していることが確認されます。

5.配員要件を満たしていること
乗組員が
・新旗国の最少安全配員証書(MSMD)
・STCW裏書
に適合していることを確認します。

6.新旗国独自要求への適合
最後に「その他の新旗国要求事項」への適合確認が行われます。
具体例としては、
・CSR関連要求
・MLC関係書類
・Flag State Inspection
・Security Officer登録
・LRIT登録
・GMDSS登録
・医薬品搭載基準
など旗国ごとの独自要求です。

7.初回審査 → Full-term SMC発行

~MLC~
同様に証書が失効となり、新旗国での証書取得手続きが必要です。
1.旧証書の失効
国籍変更は ISSC の失効事由です。
旧旗国の ISSCは必要に応じ返納する必要があります。

2.SSP(Ship Security Plan)の改訂・再承認
新しい旗国の要求事項を SSP に反映します。
主な改訂項目:
・Flag State requirements
・CSO / SSO 情報
・通報先
・SSAS 送信先
・保安関連連絡先

改訂 SSP はRSO に提出して承認を受けます。
提出書類:
・申込書
・改訂 SSP
・改訂 SSA
・新旧比較資料
・CSO 訓練証明書

3.仮 ISSC(Interim ISSC)の取得
船籍変更時は 仮 ISSC の対象です。
有効期間:最大 6か月
条件:
・SSP が船上にある
・SSP 承認申請済み
・SSO 証明書あり
・SSAS 動作確認済み
・CSR 対応済み

訪船審査で確認される項目:
・保安教育
・Drill 実施
・SSP 運用
・SSAS 試験
・CSR

.初回審査 → Full-term ISSC 発行
仮証書期間内に、初回審査を受検し、Full-term ISSC 発行(5年)されます。

~MLC~
MLCも同様に証書が失効となり、手続きは以下のようになります。
1.旧 MLC の失効
旗国変更により、旧旗国発行のMLCやDMLC Part Iは無効になります。

2.新旗国の DMLC Part I 入手
まず旗国からDMLC Part Iを取得します。
内容:
・最低年齢
・雇用契約
・労働時間
・居住設備
・医療
・苦情処理

3.DMLC Part II 作成・改訂
船主側で、新旗国の Part I に合わせてDMLC Part IIを作成または改訂します。
記載内容:
・Procedures
・Plans
・Continuous compliance measures

4.文書審査
ROへ提出します。
・Form MLC-APPLI-R
・DMLC Part II
・関連マニュアル
審査完了後Letter of Reviewが発行されます。

5.暫定 MLC(IMLC)検査
船籍変更時はInterim MLC (IMLC)の対象です。
有効期間:最大 6か月

船上で確認:
・MLC 手順が実施可能か
・居住設備
・労務管理
・苦情処理
・医療体制

.初回検査 → Full-term MLC
暫定期間内に文書審査完了し船上運用実績(原則1か月以上)して、初回検査後Full-term MLC 発行(5年)が発行されます。

以上のように整理してみると作業量が多いことが分かります。
まずは中国PSCのパナマへの過度な検査の波が収まってくれることを期待したいです。

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