造船所の設計担当者にぜひ知ってほしい – ”一等機関士”は今や ”2nd Engineer” が国際標準です!

新造船登録検査

造船所で図面レビューをしていると、居住区配置図や機関室関連図面に、いまだに “1st Engineer” という表記が残っているケースを見かけることがあります。長年使われてきた表現であり、すぐに重大な問題になるわけではありませんが、現在の国際的な実務標準から見ると、この呼称は見直しが望ましいものになっています。

結論から言えば、現在の国際海運実務において、一等機関士は “Second Engineer” と呼ぶのが標準です。少なくとも、公的文書、船員証書、旗国関連書類、PSC対応を考えるなら、この呼称に統一しておくことが最も合理的です。

この背景を理解するためには、まず国際条約上の正式な役職名称を知る必要があります。

機関部の職位名称の国際的な根拠となるのは、International Maritime Organization が定める STCW条約(船員の訓練・資格証明・当直基準条約) です。STCWでは、機関部の主要職位として “Chief Engineer Officer(機関長)”、“Second Engineer Officer(機関長に次ぐ責任者)”、“Officer in Charge of an Engineering Watch(当直機関士)” などが規定されています。

ここで重要なのは、STCW条約上、“First Engineer” という正式な職位は存在しないという点です。機関長の次席者は、あくまで “Second Engineer” が正式名称です。

では、なぜ日本では「一等機関士」と呼ばれているのでしょうか。

この混乱の背景には、日本語の資格制度と英語圏の階級体系の違いがあります。英語圏では、機関部の序列は “Chief” を頂点として、その下を番号で呼びます。つまり “Second Engineer” は「二等」ではなく、「Chief Engineer に次ぐ者」という意味です。順位の2番目という組織上の位置づけを示しているのであり、日本語の「二等」と単純に対応しているわけではありません。

一方、日本では古くから海技免状制度として「一級海技士(機関)」「二級海技士(機関)」という資格等級が存在します。この資格等級をベースに、現場では一等機関士、二等機関士、三等機関士という呼び方が定着しました。

つまり、日本語の「一等」は資格制度上の序列であり、英語の “Second Engineer” は船内組織上の役職名です。この二つが異なる体系であることが、呼称のズレを生んでいます。

実務上、ときどき “1st Engineer” という表記を見ることがあります。これは完全に誤りというわけではありません。特に米国系企業や古い社内慣習では、First Engineer という表現が使われることがあります。ただし、それはあくまで社内的・慣習的な呼称であり、国際条約上の正式名称ではありません。

そのため、造船所の図面やマニュアルに “1st Engineer” が残っている場合、即座に違反になるわけではないものの、別の文書との整合性が問題になる可能性があります。

たとえば、Safe Manning Document に “Second Engineer” と記載されている一方で、Crew List や Engine Room Responsibility Chart に “1st Engineer” と書かれていた場合、Paris Memorandum of Understanding に基づくPSC検査では「これは同一ポジションなのか、それとも別ポストなのか」という確認が入る可能性があります。

PSCで重視されるのは、単なる呼称ではなく、証書・乗組員資格・実際の運用の整合性です。特に確認対象となるのは、CoC(資格証明書)、Safe Manning Document、Crew List、ISM関連文書などです。これらの間で役職名が一致していない場合、文書不整合として指摘対象になり得ます。

図面だけを見れば、たとえば “1st Engineer Cabin” や “Office of 1st Engineer” といった記載が、直ちにPSC Deficiencyへ発展するケースは多くありません。多くの場合、単なるラベルとして扱われます。しかし、その図面が緊急配置図、責任分担図、Muster List のような運用上重要な文書と結びつく場合、役割の不明確さがISM上の軽微指摘につながる可能性は否定できません。

近年では、主要旗国である Panama や Liberia を含め、CoCなどの公的証書で “1st Engineer” 表記が採用されることはほぼなくなっています。2017年以降、主要旗国の実務では “Second Engineer” への統一がさらに進んでいます。

こうした流れを踏まえると、造船所や設計部門においても、図面表記を現代の国際標準へ合わせていくことが望ましいでしょう。

新造船であれば、居住区配置図、GA図、Accommodation関連図面、機関室配置図などに記載する役職名は、可能な限り Chief Engineer / Second Engineer / Third Engineer というSTCW準拠の表記へ統一することを推奨します。既存船については、直ちに修正が必要とは言えませんが、少なくとも他の公的文書との整合性は確保したいところです。

造船所にとって図面上の職位表記は小さな問題に見えるかもしれません。しかし、船舶の運用、旗国対応、PSC、ISM監査といった実務の現場では、こうした細部が意外な形で重要になります。

「1st Engineer」という表記そのものが違反なのではありません。問題になるのは、それが国際標準から外れ、他文書との間に齟齬を生む場合です。

だからこそ、今後の設計実務では、「一等機関士=Second Engineer」という国際標準を前提に図面を作成することが、より合理的で、よりトラブルの少ない運用につながると言えるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました