Crew Welfare

RightShipのCrew Welfareとは”海運業界における船員福祉・人権対応の新たな国際的取り組み”である。

近年、海運業界では「Crew Welfare(船員福祉)」への関心が急速に高まっている。背景には、COVID-19パンデミック時に発生した世界的な船員交代危機や、ESG・人権デューデリジェンスへの国際的要求の強まりがある。

こうした状況の中、船員の人権・労働環境改善を目的として展開されているのが、RightShipによる「Crew Welfare Self-Assessment(船員福祉自己評価制度)」である。

本記事では、RightShip Crew Welfareの概要、背景、制度内容、評価の考え方、業界への影響について詳しく解説する。

Crew Welfareが注目される背景
COVID-19による“Crew Change Crisis”

2020年、新型コロナウイルス感染拡大に伴う各国の入国制限により、世界中で40万人以上の船員が海上に取り残される事態が発生した。

この「Crew Change Crisis(船員交代危機)」では、
・契約満了後も下船できない
・長期間の乗船継続
・精神的疲労
・医療アクセス不足
・家族との隔絶
など、多くの深刻な問題が顕在化した。

この出来事は、船員が国際物流を支える不可欠な存在である一方で、その権利保護体制が十分でなかったことを世界に認識させる契機となった。

船員福祉における現在の課題

RightShipでは、現在の海運業界には以下のような構造的課題が存在すると指摘している。

  1. Reactive(事後対応型)

多くの場合、問題が発覚するのは船員が長期間苦しんだ後である。

例えば:
・未払い賃金
・長時間労働
・不適切な居住環境
・ハラスメント
・精神的負荷
などは、Port State Control(PSC)拘留や重大事故後に初めて表面化するケースが多い。

つまり、「問題発生後」に対応する構造となっており、予防的アプローチが不足している。

  1. Punitive(懲罰中心)

従来の制度は、
・MLC違反
・PSC Detention
・人権侵害
などへの「罰則」や「指摘」が中心となっている。

一方で、
・良好な労働環境
・積極的な福祉向上施策
・継続的改善活動
などを評価・可視化する仕組みは限定的であった。

RightShipは、単なる違反摘発ではなく「良い取り組みを促進する文化」が必要であるとしている。

  1. Data(データ不足)

船員福祉に関する信頼性の高いデータは依然として不足している。

現在主に利用されている情報源は、
・PSC Detention Report
・海事ニュース
・重大事件報道
などに偏っている。

しかしこれらは「問題発生後」の情報であり、日常的な労働環境や改善活動を十分に反映していない。

RightShip Crew Welfare Self-Assessmentとは
制度の概要

Crew Welfare Self-Assessmentは、船主・船舶管理会社(DOC Holder)が自社の船員福祉への取り組み状況を自己評価するオンラインプラットフォームである。

目的は単なる「監査」ではなく、
・自社の現状把握
・改善点の可視化
・継続的改善
・ステークホルダーへの透明性向上
を支援する点にある。

制度開発の背景

この取り組みは、
・Sustainable Shipping Initiative(SSI)
・Institute for Human Rights & Business(IHRB)
・Rafto Foundation for Human Rights
などが協力して開発した。

さらに、国際労働・人権基準を基盤とした「Code of Conduct – Delivering on Seafarers’ Rights(船員の権利実現に関する行動規範)」が策定されている。

このCode of Conductは、
・ILO Maritime Labour Convention(MLC)
・国際人権原則
・労働基準
をベースに構築されている。

Self-Assessmentの特徴

  1. 評価ではなく“改善支援型”

RightShipは、この制度を「ランキング制度」ではないと明言している。

つまり、
・点数競争
・格付け
・ペナルティ
を目的としていない。

重要なのは、

「現在地を把握し、継続的改善を進めること」

である。

  1. “Yes”を全て埋める必要はない

自己評価では、
・全項目達成
・全て“Yes”
である必要はない。

むしろ、
・どこに課題があるか
・どの分野を改善すべきか
・来年までに何を強化するか
を把握することが重視されている。

  1. 毎年更新による継続改善

Self-Assessmentは年次更新が推奨されている。

これにより、

Crew Welfare Roadmap作成
KPI設定
改善進捗確認

など、中長期的改善活動につなげることが可能となる。

Charterer(荷主・用船者)側のメリット

近年、ChartererやCargo Owner側でも、
・ESG
・Human Rights Due Diligence
・Supply Chain Transparency
への要求が強まっている。

Crew Welfare Self-Assessmentは、
・船社選定時の参考
・リスク低減
・サステナブル調達
の一部として利用され始めている。

RightShipでは、Self-Assessment完了企業に対して、「Crew Welfare Badge」をRightShip Platform上で表示している。

データの扱いと機密性

RightShipは以下を明確にしている。
・提出内容は第三者へ公開されない
・RightShip Safety Scoreへ影響しない
・GHG Ratingへ影響しない
・Vetting結果へ影響しない
・Dry Bulk Inspectionへ影響しない

公開されるのは、
・Self-Assessment完了状況
・Crew Welfare Badge
のみである。

また、提出データは匿名化・統計化された形で業界分析に利用される。

海運業界におけるCrew Welfareの重要性

船員福祉は単なる「コンプライアンス」ではなく、以下に直結する重要テーマとなっている。
・安全運航
・事故防止
・離職率低下
・船員確保
・生産性向上
・ESG対応
・サステナビリティ
特に若年船員不足が深刻化する中、「選ばれる船社」となるためにも、Crew Welfareへの取り組みは今後さらに重要になると考えられる。

まとめ

RightShip Crew Welfare Self-Assessmentは、単なるチェックリストではなく、海運業界全体の船員福祉向上を目的とした継続改善型プラットフォームである。

従来のような、
・問題発生後対応
・違反摘発中心
ではなく、
・予防的アプローチ
・継続改善
・透明性向上
・人権尊重
へと業界の考え方を転換しようとしている点が大きな特徴である。

今後、ESGや人権デューデリジェンスの重要性が増す中、Crew Welfareへの対応は海運企業にとって競争力の一部となる可能性が高い。

船員福祉を「コスト」ではなく、「持続可能な海運を支える基盤」として捉える視点が、これからの海運業界には求められている。

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