船舶のCritical Spare Parts(重要予備品)については、多くの船会社で鋼船規則をベースに管理されています。しかし近年、RightShipやRISQ Inspectionでは、単に法令や船級規則を満足しているだけでは十分とは考えられておらず、OCIMFが提唱するRisk Based Approach(リスクベースアプローチ)に基づく管理体制が求められるようになっています。
その傾向を示す事例として、Port Hedlandへ寄港した船舶に対してPort独自のSurveyorが実施した検査があります。複数の船舶で共通して指摘された内容は、「Essential Spare Parts ListにEGCS(排ガス浄化装置)やBWMS(バラスト水処理装置)の重要予備品が含まれていない」というものでした。これはPSC(Port State Control)による指摘ではなく、Port独自の検査であったものの、RightShip検船でも同様の視点で確認される可能性が十分考えられる内容です。
多くの船会社では、Essential Spare Parts Listを鋼船規則D編24章に基づいて作成しています。鋼船規則では、主機、補機、ボイラ、ポンプ、推進軸系など、機関設備を中心とした予備品を搭載することが求められており、売船時などにもこのリストを基準として確認されることが一般的です。一方、それ以外の設備についてはInventory Listを作成し、部品の入出庫管理や棚卸し、標準在庫数の管理を行っている会社も少なくありません。このような管理方法は、船内在庫を適切に維持するうえで非常に有効です。
しかし、RightShipやOCIMFが求めているのは、単なる在庫管理ではありません。Inventory Listは「何の部品を保有しているか」を管理するためのものですが、Critical Spare Parts Listは「重大事故を防ぐために最低限保持すべき予備品は何か」を明確にするためのものです。つまり、Inventory管理とCritical Spare Parts管理は似ているようで目的が異なります。十分な在庫管理を実施していても、「なぜその部品を重要予備品として管理しているのか」というリスク評価まで説明できなければ、OCIMFが求める管理とは言えません。
この考え方はRISQにも明確に表れています。RISQ Question 13.11では、Planned Maintenance System(PMS)の管理について、「Safety Critical Spare Partsは最低限の規制要求を超えたリスクベースアプローチで管理することが推奨される」と記載されています。また、参考資料としてOCIMFのSafety Critical Equipment and Spare Parts Guidanceが示されており、会社は新造船・既存船を問わず、この考え方を取り入れることが推奨されています。
OCIMFでは、まずSafety Critical Equipment(安全上重要な機器)を特定し、その設備を維持・復旧するために必要なSafety Critical Spare Partsを選定するという考え方を採っています。Safety Critical Equipmentとは、単一点故障(Single Point Failure)によって人命や環境に重大な影響を及ぼす可能性のある設備を指します。代表例として、主機、操舵装置、非常発電機、Engine Control System、Power Management System、消防設備、通信設備、Cargo Safety System、Ballast Management Systemなどが挙げられていますが、OCIMFは「これらに限定されるものではない」と明記しており、最終的には船舶ごとのRisk Assessmentによって決定すべきとしています。
さらにOCIMFは、重要予備品を単に搭載するだけでは十分ではないとしています。会社のSMSにはRisk Management Policy、Risk Assessment、Spare Parts Policy、Inventory Management、Minimum Stock、Vendor Supportなどを組み込み、PMSではSafety Critical EquipmentとSafety Critical Spare Partsを識別し、整備延期時にはRisk Assessmentを実施することまで推奨しています。つまり、「部品を持っている」ことではなく、「リスクに基づいて管理されている」ことが重要視されているのです。
この考え方が特に明確に現れているのがBWMSです。RISQ Question 5.10では、Ballast Water Management Systemについて、「消耗品だけでなくCritical Spare Partsが直ちに使用できる状態であること」が確認事項として記載されています。これは、BWMSについてはCritical Spare Partsを選定し、リスト化して管理することが前提となっていることを意味します。
実際に主要メーカーであるAlfa Laval、ERMA FIRST、Optimarin、Ecochlor、Wärtsilä、JFE BallastAceなどが重要予備品として推奨しているものを見ると、UVランプやクォーツスリーブ、UVセンサー、TROセンサー、pHセンサー、流量計、差圧センサー、ソレノイドバルブ、PLCバックアップバッテリー、電源ユニットなど、システムの運転継続に不可欠な部品が数多く含まれています。これらは故障するとバラスト処理そのものが継続できなくなる可能性があるため、多くのメーカーでCritical Spare Partsとして位置付けられています。
同様の考え方はEGCSにも当てはまります。鋼船規則にはEGCSの重要予備品に関する具体的な要求はありませんが、運航上不可欠な設備である以上、センサー類やポンプ部品、制御機器などについてはRisk Assessmentを実施し、必要な予備品を明確にしておくことが望ましいでしょう。
このように考えると、RightShip対策として重要なのは、鋼船規則D編24章に基づくEssential Spare Parts Listを否定することではありません。鋼船規則の要求事項は当然満足したうえで、それに加えてBWMSやEGCSなど現在の船舶におけるSafety Critical Equipmentについても重要予備品を選定し、その選定理由をRisk Assessmentとして文書化しておくことが重要です。さらに、PMSやSMSへ反映し、最低在庫数やOEM推奨部品との整合性まで含めて管理しておけば、単なる規則適合ではなく、OCIMFが求めるRisk Based Approachを実践していることを客観的に示すことができます。
RightShipやRISQでは、今後ますます「規則を満足しているか」だけではなく、「リスクを理解し、そのリスクに基づいて管理しているか」が評価される時代になっています。Critical Spare Parts Listについても、鋼船規則だけに依存するのではなく、OCIMFのガイダンスを取り入れた管理体制へ発展させることが、今後の検船対策として非常に有効であると言えるでしょう。